上陸の前夜、食堂で


 上陸の前夜、食堂で、何時の間にか将校たちの酒宴が開かれてゐた。  外国武官連も、その時はじめて彼等の仲間入りをした。  さながら聯隊の将校集会所であつた。  ボーイは当番の如く右往左往した。  米国中佐は流暢な日本語で、 「××参謀長閣下には以前大へん御厄介になりました。お酒ですか? いや、私はあんまり頂けませんです」  Yが高らかに詩吟をやりだした。  英国中尉に木曾節を歌へと責めてゐるのはSだ。たうとう自分でやり出した。  と、だしぬけに、Yはポーランドに握手を求めながら、 「君の国はなかなかよろしい。日本の味方だらう」  と、それを私に通訳しろである。  私はペルウとポーランドを彼は間違へてゐはせぬかと思つたが、そんなことはまあいい。英米の方へ五分の注意を払ひながら、その意味を伝へてやつた。  ポーランドは、「メルシイ、メルシイ」と云つてYの手を握つた。  さつきから、この壮快な雰囲気のなかで、酒を飲まずに始終微笑をふくんでゐた日本の一大佐は、傍らの米国に向つて訊ねた。 「どうです、日本の将校は元気でせう」  すると、米国は、なんでも呑み込んでゐるといふ風に、 「いや米国でもおなじです。戦地に向ふ前の米国将校と来たら、こんなことぢやすみません」  大佐は、そこで、鷹揚に、天井を仰いで呵呵大笑した。  私は、Sから盃を受けながら問うた。 「君は、どの方面へ行くの?」 「わからん○○○へ行けと云ふ命令を受けたゞけで、その先は聞いてない」 「新しい部下を渡されるわけだね」 「うん、一日一緒にゐれば新しいも古いもないさ。そこが軍隊の有りがたいところだ。なあ、さうだらう」 「さうだ」  と、私は、彼の眼をぢつと見つめた。――いゝ隊長だな、と感じた。 VALID SEO いまどきのSEO対策 ウィルゲート ヴォラーレ

Komentarai

Rašyti komentarą