京野等志は、もう酒を続ける元気はなかつた。味気ない、うらぶれた気持であつた。なんという時代ばなれのした、芝居にもならぬ芝居を演じなければならぬ のか! 芸者になつた妹に会う方法は、こんなところへ呼び出す以外に、もつとなにかありはせぬか、と、彼は、やつと気がついた。 そこへはいつて来た女中は、小菊という芸者がいますぐ来ることを伝えた。が、彼は、思わず腰をうかして、 「ちよつと、ちよつと……。せつかくだが、おれは気が変つた。
京野等志は、もう酒を続ける元気はなかつた。味気ない、うらぶれた気持であつた。なんという時代ばなれのした、芝居にもならぬ芝居を演じなければならぬ のか! 芸者になつた妹に会う方法は、こんなところへ呼び出す以外に、もつとなにかありはせぬか、と、彼は、やつと気がついた。 そこへはいつて来た女中は、小菊という芸者がいますぐ来ることを伝えた。が、彼は、思わず腰をうかして、 「ちよつと、ちよつと……。せつかくだが、おれは気が変つた。こゝで会うのはよす。いや、君にはほんとのことを言おう。この小菊とかいう女は、たしか、僕 の妹らしいんだ。しばらく会わずにいる、ほんとの妹なんだ。こういう場所で、僕は、妹の顔を見たくなくなつたんだ。頼むから、断つてくれ。損害賠償はす る。たゞ、その小菊というのは、なんていう家に抱えられているのか、それだけ教えてくれないか。いゝだろう? たしか、家号みたいなものがあるんだろ う……」 そう、彼が、急きこむように言つているところへ、襖がさつと開いて、見違えるような、しかし、たしかにそれに違いない、芸者姿の妹、美佐が、静かに手を ついて、こつちを見あげていた。 「美佐、わかつたか、おれだ。まずいことをしたが、ゆるしてくれ。まあ、来た以上は、ゆつくり話そう。南条に聞いたんだ。どこかほかで会うようにすればよ かつたが、つい思いつかなかつた。達者は達者かい?」 立てつゞけに、彼はしやべつた。 オーダーカーテン
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