深志からも、まつたく音沙汰がなかつた

 深志からも、まつたく音沙汰がなかつた。母がときどき、前に荷物を運んだ運送屋に頼んで、下着類などを宿に届けさせているらしかつた。  その日もちようど日曜であつた。多津は、前の日から外出の用意をし、朝食をすますと、帰りはすこし遅くなるかもしれぬといつて、いそいそと出て行つた。 真喜は、友達の家を訪ねる約束があるといい、これも、一人で、あたふたと出掛けた。

 深志からも、まつたく音沙汰がなかつた。母がときどき、前に荷物を運んだ運送屋に頼んで、下着類などを宿に届けさせているらしかつた。  その日もちようど日曜であつた。多津は、前の日から外出の用意をし、朝食をすますと、帰りはすこし遅くなるかもしれぬといつて、いそいそと出て行つた。 真喜は、友達の家を訪ねる約束があるといい、これも、一人で、あたふたと出掛けた。京野等志は、久しぶりで友人の南条を誘い、どこかでいつぱいひつかけよ うと思いたち、電話をかけておいて、夕方、早めに家を出た。  南条己未男は、彼の顔をみると、 「おい、ビッグニュースだ。驚くなよ」  と言つた。 「驚かない。それより、早く支度をしろよ」 「支度はもうできてる。そうかなあ、驚かないかなあ。美佐ちやんの消息、最近の、知つてるかい?」 「美佐の消息? 知らない。死んだか?」  と、彼は、わざと冷静に、とぼけてみせた。 「それがそうじやないんだ、つい、こないだ、おれは、妙なところで、ぱつたり出くわしたんだ。築地の待合だ」 「…………」  京野等志は、すぐには腑におちなかつた。それとみて、南条は言葉をついだ。 「芸者になつてる、芸者に……。これでも驚かんか?」 「ほんとかい?」 「おれがこの眼で見たんだから間違いないさ。まさかと思つた、はじめは。こつちの方がまごついちまつたよ。向うは、どうして、出たてだつていうけれど、落 ちついたもんさ。おれを知つて、わるびれるどころか、――とうとう見つかつちやつた。兄が帰つて来てるのご存じ? もうお会いになつた? こうだよ。会社 の宴会なんだが、おれは挨拶に困つた」  二人は、もう本郷の通りを歩いていた。 日野市 リフォーム

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