開け放された正面の丸窓から、葉桜の枝が覗いてゐる。
母は、縫ひものをしてゐる。
娘は、その傍らで、雑誌の頁を繰つてゐる。
――間。
娘 (顔をあげ、無邪気らしく)あたし、どうでもいゝわ。
母 (わざと素気なく)母さんもどうでもいゝ。(間)どうでもいゝことはないよ。(間)お前も少しはかんがへたら……?
娘 考へるつて……だから、あたし、母さんのいゝやうにするわ。
母 母さんは別に異存はないよ。たゞお前の気持さ、大事なのは……。
開け放された正面の丸窓から、葉桜の枝が覗いてゐる。
母は、縫ひものをしてゐる。
娘は、その傍らで、雑誌の頁を繰つてゐる。
――間。
娘 (顔をあげ、無邪気らしく)あたし、どうでもいゝわ。
母 (わざと素気なく)母さんもどうでもいゝ。(間)どうでもいゝことはないよ。(間)お前も少しはかんがへたら……?
娘 考へるつて……だから、あたし、母さんのいゝやうにするわ。
母 母さんは別に異存はないよ。たゞお前の気持さ、大事なのは……。
娘 ……。
母 それと、あの人の態度……わからないのはね……。見合をした、気に入つた、貰はう、それで、こつちにもすぐ返事をしろ……、これぢや、お前、あんまり、お手軽すぎるからね。あれから、もう一月にもなるんだし、なんとか、本人から……話がありさうなもんぢやないか、そのことについてさ……。それとも、直接お前に、何か云ふことは云つたのかい。お前の気持を訊いてみるつていふやうなことはしたの……?
娘 (首を振る)
母 ぢや、お前と二人つきりの時は、どんな話をするの。
娘 どんな話つて……黙つてる時の方が多いわ。それよりね、変なのよ、あの人。それや、可笑しいの。
母 何が。
娘 それがね、二人つきりの時は、まあ、いゝのよ。あたり前なの……。ところが、あの人のうちへ行くと、急に態度を変へちまふの。お母さんや妹さんのそばだとよ。まるであたしに素気なくするの。
母 どういふ風に……。
娘 第一、口を利かないの。それから、顔も見ないの。
母 へえ。
娘 なんていつていゝかしら……。とてもつまらなさうな様子をするの。すぐ欠伸なんかして……。
母 へえ。
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