「親切だね。さういふもんかねえ。どんなひと、その旦那さんつて?」 「学者よ。大学の先生よ。なんか書いてもゐるんでせう。あら、あんたまだ知らないの?」 「それくらゐのことは、あたしだつて知つてるさ。福代ちやんも罪な死に方をしたもんだなあ。お寺はどこさ?」 「お墓は多摩墓地なんだつて……いつか、私達一緒にお参りしない?」 「お墓参りつて、ありや、遺族のためにするもので、死んだ人間は、お前さん、あすこにゐやしないもの」
「親切だね。さういふもんかねえ。どんなひと、その旦那さんつて?」 「学者よ。大学の先生よ。なんか書いてもゐるんでせう。あら、あんたまだ知らないの?」 「それくらゐのことは、あたしだつて知つてるさ。福代ちやんも罪な死に方をしたもんだなあ。お寺はどこさ?」 「お墓は多摩墓地なんだつて……いつか、私達一緒にお参りしない?」 「お墓参りつて、ありや、遺族のためにするもので、死んだ人間は、お前さん、あすこにゐやしないもの」 「軽井沢で、なんかあつたらしいぢやないの」 「そんなこと書いたかねえ。まだ本もんとは云へないけどね。あるにはあつたさ」 「グラン・タムールの口なの?」 「まあ、そのへんだね。さうさう、あれを云はなくつちや、グラン・タムールの条件つてやつをね。いゝかい。第一はまつたく打算をはなれること。つまり、功利的ぢやないこと。第二は、唯一人が相手だといふこと……」 「あたり前だわ」 「黙つてなさい。そんなこと云ふけどさ、実際の交渉は一人に限られてゐてもさ、時によつて、ほかの相手がちらちら眼にうつるなんていふのはダメなのさ」 「うん、それやさうね、第三は?」 「第三は、なんだつけな、さうだ、第三は、相手の欠点が全然見えなくなること。つまり、アバタもエクボつていふ、あれさ。スタンダールの云ふ、『結晶作用』が完全に行はれてゐるといふ状態、これさ」 超常現象・世界のミステリー セントラルリサーチセンター
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