妻 なんだか嘘見たいだわ。
母 全く小説か芝居の筋にでもありさうな話さ。だけど、よくそんなに残したもんだよ。だが、それでゐて、お前不断をごらん。姉さんのときでもお前のときでも、お祝はたつた二円の為替ですよ。
妻 なんだか嘘見たいだわ。
母 全く小説か芝居の筋にでもありさうな話さ。だけど、よくそんなに残したもんだよ。だが、それでゐて、お前不断をごらん。姉さんのときでもお前のときでも、お祝はたつた二円の為替ですよ。
妻 (誰れにともなく)五万円つて云つたら、百円の何倍になるの。
詩人 五千倍でせう。
妻 (夫の方を見て)さうなるかしら。
夫 (わざとそつぽを向き)計算してごらん。
母 どつちにしても、少いお金ぢやありませんね。この娘も果報者ですよ。
妻 (それとなく夫に)それだけあれば、もう少し陽気に暮せるわね。
詩人 (急いで)エヘン、渋谷さん、もう二十分前ですよ。
夫 それぢや、失礼ですが、僕はこれで……。
妻 でも、まだお話があるかも知れないわ。もう少しいゝでせう。
夫 (立ち上つてから)それもさうだね。今日は一時間ぐらゐ遅れても、いゝにはいゝんだ。
詩人 (これも立ち上り)エヘン/\。(さういひながら夫の背中をつく)
夫 (仕方がなしに歩き出しながら)しかしまあ、僕には関係の少い事だから、お前からよく……。
詩人 (相変らず夫を押しやり)エヘン……エヘン。
夫、挨拶もそこ/\に玄関に出る。妻の母が送つて出ようとするのを妻が裾をとらへて放さない。
三郷市 歯科
2014.03.11 09:20
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