弟の、ぴしぴしと鞭をあてるやうに


 弟の、ぴしぴしと鞭をあてるやうに吐きだす言葉の連続を、夫は、さも大儀さうに聴いてゐる様子である。 「お前が一体そんなことを言つて、なにになるんだい? しかも、おれの前で、なにをどうしようつて云ふんだ? 新しい仕事を始めるのに、金が欲しいつていふことはわかつた。それならそれで、おれにその金があるかないか、若しあれば、そいつをおれが出すかどうかを知ればいいんだらう?」 「違ひますよ、兄さん、だから僕はさつきから言つてるぢやありませんか。使ひ過ぎた穴を埋めるんだとか、一と儲けするために資本がいるとか、そんなことなら、わざわざ兄さんに相談をもちかけやしませんよ。僕は、自分もこの際、もつとぢかに戦争に関係のある仕事ができ、兄さんにも、現在の日本人として、男らしく起ち上つてほしい、さういふつもりで、兄さんの肚の中を見せてもらひに来たんです。最初に企業整備のことを持ち出したもんだから、兄さんはそれにばかりこだはつてるけれど、僕は、続けて出版をやつて行く自信もあるし、軍需工場の新設は、ほかに金の当てもないことはないんです。僕の一番望んでゐたことは、兄さんが――おれは金は出せない。しかし、お前の考へてることはよろしい。おれは、おれの立場でこんな計画を立ててゐるんだ――さういふ調子の返事を聴きたかつたんです」  義弟の声は、ここで急にうるんで、鼻を啜る音さへ交つた。ヴォラーレ

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