可笑しいのは


「可笑しいのは兄さんの方ぢやありませんか。僕がもし興奮してるとすれば、兄さんはどうなんです。少くとも、冷静だとは、僕は見ませんよ。不感性か、さもなければ、立派なニヒリズムだ。兄さんは、日本のことが心配にならないんですか? この戦争の実体がなんであるか、それを考へないんですか? ぢつとしてなんかゐられない筈ですよ。むろん、軽薄な手合と一緒に、騒ぎ廻るのはいやでせう。そんなことは別問題です。なぜ、兄さんの能力を、直接、国の役に立てようと思はないんです。例へば国策宣伝の写真展覧会に一度でも出品しましたか? それより何より、今度の写真家の大同団結に、兄さん一人、参加を拒んでるつていふのは、どういふわけです?」

「そんなこと、お前に話したつてわかりはしないよ」

 夫の冷やかな応対である。

「ぢや、兄さんは、ガダルカナルの転進を、どういふ風に思ひますか? 当局は、まだ戦局の不利を明言してはゐませんが、国民としては十分、腹を据ゑて、次の段階に備へる覚悟をしなくちやなりますまい」


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