夫も無言、妻も無言であつた


 夫も無言、妻も無言であつた。  夫は、拳銃を引き寄せて、サックから、それを出した。そして、ひと通り、その形を指先であらためると、引金を引くばかりの持ち方で、銃先を二三度上下に振り動かした。それから、ゆつくり、彼は歩きだした。 「ねえ、美津子、僕はどうしたらいゝんだ? 僕の愚かさが作り出した不幸なら、僕は、いくらでも堪へ忍んでみせる。しかし、僕は、理由もなく、人に愚弄されるのは、いやだ。まして、僕がめくらだからといつて、僕を愚弄するやつは、ゆるすわけにいかんのだ。さあ、その男を、僕は、きつと探し出してみせるからね」  さう言つたと思ふと、いきなり、応接間のドアを開けて、 「窓から逃げ出さうといふのか? さうはさせない。動いたら、撃つぞ!」  銃先は、ちやんと、窓ぎはにからだをすくめてゐる藤岡の背に向けられてゐた。  美津子は、夫のうしろから、忍び足でついて来てゐた。藤岡の眼が、彼女の眼に、なにか囁いてゐる。彼女は、夫に飛びかゝつて、拳銃を握つた手に縋りついた。が、それは無益な試みであつた。彼女は、突きのけられ、ぐつたりとソファの上に倒れかゝつた。  その隙に、藤岡は、足音を立てぬやうに、次の窓に逼ひ寄つた。すると、銃先は、正確に、彼の移動する線に添つて、なめらかに、左から右へ廻転した。 薬剤師求人サーチ<満足の好条件求人が見つかる>

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