もう、わしどめにや


よね  もう、わしどめにや用はありまツせんな。 真壁  ああ、もう別にない。やすんでくれ。 よね  そんなら、おやすみなはりまツせ。 よね、出で去る。 三谷  (妻に)僕達も引上げようか。 真壁  あ、君達は、迷惑でなけれや、もう少し、話してつてくれないか。実は、奥さんに是非聴いて貰ひたいことがあるんだ。 三谷夫人  どんなことでせう。伺ひますわ。 真壁  なに、大したことぢやないんです。僕は今迄、自分のしようと思ふことを、人に相談したことなんかは一度もないんですがね。今度だけは、どうしても決心がつかずにゐるんですよ。おさと、お前は、一寸下へ行つてろ。 さと、三谷夫婦に会釈して出で去る。 三谷  今時分下へ行つたつて、君、ゐるところなんかあるのかい。 真壁  あいつあ、何処にゐたつてかまやしないんだよ。どうせ、下が家みたいなもんなんだ。それはさうと、奥さん、あの女をどう思ひます。 三谷夫人  どうつて……。ほんとに、おやさしい方ですわ。 真壁  奥さんなんかから御覧になると、僕たちの関係は、さぞ不純なもののやうにお考へになるでせうが、そのために、あの女を軽蔑しないでやつて下さい。 三谷夫人  軽蔑だなんて、そんな……。でも、いろいろ伺つてみると、あの方もこれから、大変ですわね。 真壁  もう、そんなお話をしましたか。 三谷夫人  いいえ、詳しいことは、なんにもおつしやらないんですけれど、ただ、あたくしが、お察ししてるだけですわ。 真壁  僕は、あの女に対して、するだけのことはしたつもりでゐるんです。ところが、いざ国へ返すといふ所になつて、大きな不安を感じ出した。と云ふのは、あの女が、国へ帰ることを、それほど悦んでゐないといふことと、もう一つは、その理由が、至極有力な理由だといふことなんです。 福岡 歯科

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