それはわかりません


「それはわかりません。愛されたことがありませんから。しかし、わたくしの知つてゐる限りでは、激しく愛し、そして、愛情をAからBに移すことが、自然にできる女のひとりでした」 「マダムとおつしやつたのは、もちろん、未亡人でせうね」 「たしかさうです。ホチムスキイといふのは、フランス人ならユダヤ系、多分、ポオランドにある姓です」 「もうよかない、それくらゐで……」  と、鈴江が口を挟んだ。 「なんだか、まだはつきりしないわ」  と、真帆子は物足りなさうであつた。しかし、階下からアイスクリームが運ばれて来たので、会話は途絶えた。鈴江は言つた―― 「ぢや、かうしてるところを、一枚、写真にとらしてあげようぢやないの。おそるべき訊問に遭つた代りに……」  ロベエル・コンシャアルは、やつと放免されたやうに起ちあがつた。  真帆子と鈴江とが並んで、アイスクリームの匙を口に運んでゐるところを、部屋ぐるみレンズにおさめて、彼はほくほくであつた。 ヴォラーレ

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