美奈子は、母を囲む若い男性を避けて、一間ばかりも離れて立つてゐた。彼女は、最初その男達の間に、あの青年のゐないのを知つた。一寸期待が外れたやうな、安心したやうな気持になつてゐた。その内に、母を見送りの男性は、一人増え二人加つた。が、かの青年は何時まで待つても見えなかつた。その男性達は、美奈子の方には、殆ど注意を向けなかつた。たゞ美奈子の顔を、外ながら知つてゐる二三人が軽く会釈した丈だつた。
「奥さん! まだ判つてゐることがあるのですがね。」
暫くしてから、紺の背広を着た会社員らしい男が、おづ/\さう云つた。
「何です? 仰しやつて御覧なさい。」
夫人は、微笑しながら、しかも言葉丈は、命令するやうに云つた。
「云つても介意ひませんか。」
「介意ひませんとも。」
夫人は、ニコ/\と絶えず、微笑を絶たなかつた。
「ぢや申上げますがね。」彼は、夫人の顔色を窺ひながら云つた。「青木君を、お連れになると云ふぢやありませんか。」
それに附け加へて、皆は口を揃へるやうに云つた。
「何です、奥さん。当つたでせう。」
皆の顔には、六分の冗談と四分の嫉妬が混じつてゐた。
「奥さん、いけませんね。貴女は、皆に機会均等だと云ひながら、青木君兄弟にばかり、いやに好意を持ち過ぎますね。」
小山と云ふ外交官らしい男が、冗談半分に抗議を云つた。
美奈子は、母が何と答へるか、ぢつと聞耳を立てゝゐた。
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2013.12.25 13:33
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